2007-09-01 |
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2007年 ブエルタ・ア・エスパーニャ コース概要と解説(レース資料) |
「2007年、ブエルタ・ア・エスパーニャ」コース概要と解説 世界中で行われるロードレースの中で、最も熱い戦いが見られるレースがある。それが9月にスペインを一周するステージレース(※1)「ブエルタ・ア・エスパーニャ」だ。今年のレースは9月1日、スペイン西部の大西洋岸の都市ビーゴで開幕する。ここから栄光のマイヨ・オロ(※2)を求めて、マドリッドを目指す総距離3,300km、全21ステージ、3週間にわたる旅が始まる。 ビーゴはガリシア州の中でも有数の港湾都市であり、また自動車工業都市である。ガリシア州といえば自治州の首都、サンティアゴ・デ・コンポステーラが世界的に知られている。キリスト教カトリックの聖地として、巡礼者がヨーロッパ各地から今でも徒歩で目指す都市である。この都市は第2ステージのフィニッシュとして、2007年のブエルタの中にも名を刻むことになる。 2007年のブエルタは前半の10日間で勝負が決まる可能性がある。 昨年の初日はチームタイムトライアル(※3)であったが、今年は第1ステージからマスドスタート(※4)のロードレースが行われ、ビーゴをスタートしてビーゴに戻ってくる153kmから戦いが始まる。初日のマスドスタート設定は1998年以来のこと。区間優勝した選手がそのままレースリーダーとなり、今年一枚目のマイヨ・オロに袖を通す。 初日から3日間は比較的平坦基調なので、スプリンターの競演が見られるはずだ。きっと昨年のように、爆発的なスピード勝負が繰り広げられるだろう。しかし開幕から4日目に、いきなり本格的な山岳ステージがやってくる。標高1,110mの山岳カテゴリー超級(※5)であるコバドンガの湖まで登るのだ。 このように開幕後、わずか4日目に超級山岳フィニッシュが設定されるのは、ブエルタでは決して珍しいことではない。昨年はもちろん、2001年や2002年もマスドスタートレースの4日目に、超級山岳の登りフィニッシュを経験している。 そして、この前半戦最後の戦いが、サラゴサへ向かって行われるタイムトライアル(※6)直後に、フランスとの国境地帯ピレネー山脈で行われる。それは非常に困難な、2日連続の超級山岳頂上フィニッシュである。4日目に超級山岳コバドンガを越えた後、中級山岳区間を1日と平坦区間を2日走り、タイムトライアルで全力を出し切った体がこの超級山岳でどうなるのか、選手たちも不安でいっぱいのはずだ。 タイムトライアルで差をつけた選手が、ピレネーでマイヨを守るのか。それとも、全く登りのないタイムトライアルを無難にこなしたクライマーが、ここぞとばかり暴れるのか。2007年のブエルタで、絶対に見逃してはならない2区間である。 まず走る第9ステージは167km。2級山岳を3つ越えた後、最後に超級山岳セルレルのスキー場を登り切る。セルレルは2005年に、バスクの伝説的クライマーであるライセカが、サストレを15秒離して区間優勝した山岳だ。勾配はさほどでもないが、数回の下り区間を含む為、ペースを保つのが難しい登りである。 次の第10ステージは214kmを走る。2級山岳2つと1級山岳1つを超えた後、最後にアンドラ公国にある標高2,200mの超級山岳オンディーノ・アルカリスのスキー場まで登り切る。ゴールとなる坂は、2001年に登りのタイムトライアルが行われており、今はなき、ホセ・マリア・ヒメネスが勝っている。標高差1,000mの登坂中盤に勾配率8%(※7)程度の区間が続き、その後も7%程度でを登り続ける。このステージは2007年のブエルタ最長ステージでもあるので、間違いなく最難関区間である。 このように前半のコース設定が厳しい年は、最終的に表彰台に上る3名のうち、2名は前半で決まる傾向がある。今年の前半は、昨年はもちろん、2001年や2002年よりも総合力が問われる設定なので、総合優勝は決まらないとしても、表彰台に上る3人の名前は明らかになっているかもしれない。 アンダルシアで2年連続の逆転劇は見られるか。 ピレネー超級山岳ステージを乗り越えた選手たちは、移動日の意味合いもある1回目の休息日を挟み、スペイン東部の地中海側、バレンシア州から戦いを再開する。後半もまず3日間の平坦基調なステージが設定されている。ピレネーで総合成績を大きく落とした選手たちが、ステージ勝利を目指して次々と飛び出す姿が見られるだろう。また、大集団でのスプリント勝負をしたいチームが、逃げ切ろうとする選手たちを、強力に追い込む姿も見られるはずだ。 スペイン東部を南下してきたレースは、中級山岳ステージを1日走り、とうとうアンダルシア州まで到達する。第15ステージのグラナダに向かう日に、カテゴリー1級のモナチル峠を超えるのだ。この峠は昨年の第17ステージに、大逆転が起きた峠である。峠の標高は1490mで、標高差にして700mながら、登坂の前半に14%の勾配があり、平均勾配で8%以上の全長8.4kmにわたる厳しい登りである。 今年のモナチル峠越えステージは、昨年のように逆転は起きるだろうか。コースプロフィールから比較すると、モナチル峠からグラナダまでは、2年連続して同じ道であるが、モナチル峠までの行程が大きく異なる。 昨年の第17ステージは、地中海に面した港町アドラからスタートして、前半に標高1300mのカテゴリー1級アルボンドン峠を越え、後半にモナチル峠を越えてグラナダへフィニッシュする167kmだった。前日にも標高2000m以上の超級カラールアルト天文台まで登る山岳ステージがあり、翌日も超級山岳を登り切っていた。つまり、昨年は3日間連続の山岳ステージ中日にモナチル峠を登っている。 それに比べ、今年の第15ステージは、モナチル峠の前に3級の峠を2つ超える201km。ステージ前半に厳しい峠はないが、ステージの距離は長い。前日は中級山岳ステージで、翌日は休息日である。 山岳ステージでの逆転は、山頂フィニッシュの場合頻発する。しかしモナチル峠からグラナダまでのように、20kmも下ってゴールする場合では、登りで出来た差が縮まることが多いので、劇的な逆転は起こりにくい。昨年は厳しい山岳3連戦の影響で逆転が起きたと考えられるが、このような展開はそう起きるものではない。それでも近年のブエルタを見ていると、また逆転劇が見られるかもしれないと期待してしまう。今年のモナチル峠越えは翌日が休息日であるので、選手たちが全力を出し切り、力強い登りが見られることだけは確実かもしれない。 最終決戦は、アバントス峠とタイムトライアル 2度目の休息日が明けた最終週は、昨年もスタート地点となった歴史ある都市ハエンから始まる。そこからアンダルシアに別れを告げ、首都マドリードに向けてプロトンは北上していく。レースは2日間の平坦基調ステージの後、1級峠を含む中級山岳ステージ。そして勝負を決する最後の本格山岳ステージとタイムトライアルへ突入する。 最後の山岳、第19ステージはアビラからアバントス峠までの133km。前日のフィニッシュでもあるアビラは世界遺産の街で、石造りの巨大な防護壁が街を囲み、これまでもブエルタの印象的なシーンを何度も演出してきた。2007年のクライマックスがアビラから始まるとなれば、盛り上がらないわけがない。マスドスタートレースとしては、今年の最短距離ではあるものの、平坦が無く全てが登りと下りで、山岳カテゴリー1級のアバントス峠に2回も登らなければならない。これは3週間のレースを走ってきた選手たちにとって、かなりの難関ステージである。 コースの詳細はこうだ、スタートすぐに3級、2級、3級、と登り、1度目のアバントス峠越え、3級を経て最後にまたアバントス峠を登り切る。アバントス峠は標高差700m、全長12kmの登坂である。登り口から1キロの区間平均勾配がなんと14%で、最大で19%を記録する。中盤に少し下りがあり、後半に8%程度の勾配が2km続く。 このアバントス峠のように勾配変化が激しい登坂は、クライマーの中でも経験豊かな選手が活躍している。1999年にはライセカが勝利しているし、2001年には今年のように、アバントス峠を1日で2度登る設定で、同年の春にジロを勝ったシモーニが、ヒメネスとの山岳スペシャリスト対決で区間を取っている。この日は総合争いはもちろん、一花咲かせたいクライマーが是が非でも勝利をねらってくるだろう。 全ての山岳ステージを終え、残すは第20ステージのタイムトライアルで総合争いが行われる。距離は20kmと短いが全くの平坦であるので、タイムトライアルに自信のある選手は、総合優勝への望をつないでいるかもしれない。総合時間が1分以内の僅差であれば、まだ逆転が起きるかもしれないのだ。そんな例が2001年のブエルタで起きている。最終日のタイムトライアルで、それまで総合2位であったタイムトライアルに強い選手が、総合1位にいた山岳に強い選手を逆転して総合優勝に輝いている。 実は2001年のブエルタと今年のブエルタは、採用される山岳を含めてブエルタ全体のコース設定が似ている。2001年は西部のサラマンカをスタートし時計回りであった。第5ステージにコバドンガ、第12ステージにアルカリス、第20ステージはアバントス、さらに最後の勝負がタイムトライアルであった。詳細に比較したら今年の総合優勝を予想する上で役立つかもしれない。 最終日は例年通り、マドリードの周回コースが設定されている。2007年9月23日に、いったい誰がマイヨ・オロを着ているのか。きっと今年も過去の大会と同じく、市内での周回を重ねる毎に、数々の熱き戦いが思い出されるのだろう。このように今年のブエルタ・ア・エスパーニャも非常に興味深いコースが設定されている。今年最後のグランツールを、これまでと同様に大いなる期待を持って最後まで見守っていただきたい。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ※1:ステージレース 世界選手権やパリ・ルーベなど、1日で勝負が決まるレースをワンデーレースと言うのに対して、短くて2日間、長くて3週間続き、設けられた複数のステージを走り、全ステージの走行時間の合計で競われるレースをステージレースと言う。またステージ毎の勝利も競われる。ステージやステージ優勝を、区間・区間優勝と言うことがある。ほとんどのステージレースは5日間程度で、メジャーなステージレースで8日間程度、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャだけが3週間続き、3大ステージレースと言われる。 ※2:マイヨ・オロ ブエルタの総合時間首位の選手(レースリーダー)が着る特別なリーダージャージ。ツール・ド・フランスでの「マイヨ・ジョーヌ」や、ジロ・デ・イタリアでの「マリア・ローザ」と同じ意味を持つ。リーダージャージはステージレースにおいて、それまでの総合時間で首位の選手が、首位であることを示すために着なければならない。またメジャーなステージレースであれば、1日着ただけで大きな名誉が得られる。マイヨやマリアは英語で言うジャージの意味で、その後の言葉はジャージの色を意味する。ジョーヌは黄色、ローザは桃色、そしてオロは黄金色である。それらの色はそれぞれのレースを象徴する色とされている。 ※3:チームタイムトライアル(略して"TTT"と表記することもある) 通常タイムトライアルといえば、、個人タイムトライアルのことで、選手が単独で数分おきに出走する。チームタイムトライアルは、出走登録された選手がチーム単位で数分おきに出走する。グランツールでは、5番目にフィニッシュした選手のタイムが、チームのタイムになり、それぞれ個人の総合成績に加算される。 ※4:マスドスタート 出走する全ての選手が一団で一斉にスタートすること。マラソンのスタートとほぼ同じで、フィニッシュに一番にたどり着いた選手がその日の勝者となる。しかしサイクルロードレースは空気抵抗との戦いもあるため、マラソンのようには選手がばらけず、いくつもの集団を形成してレースは展開される。スタート地点が狭い町中などの場合、無用な混乱を避けるために、広い道に出るまで本当の競技開始にならないニュートラル区間となる場合がある。そのことを日本ではパレードスタートと言うことがある。 ※5:山岳カテゴリー超級 ステージレースの山岳は難易度に応じてカテゴリー付けされる。ブエルタでは最も困難な登坂である超級から、1級、2級、3級まで設定される。2007年のブエルタでは、合計42の登坂にカテゴリー設定され、そのうち3箇所しかない超級カテゴリー全てが前半の10日間にある。超級山岳は一般人にとって、何度も休憩をしなければ登り切れないほど厳しい登坂である。 ※6:タイムトライアル(略して"TT"と表記することがある) 単独で数分おきに出走する個人タイムトライアルのこと。集団で進む通常のロードレスと違い、独走で走らなければならない。チームメートや他の選手を風よけに利用することができないため、個人の本当の力が問われる。距離は最短1km程度から最長60km程度の間で行われることが多い。 ※7:勾配率 100mの距離で約10m登る坂は勾配率10%となる。一流のレーサーにとっての激坂は15%程度から。勾配率が8%でも1km続けば標高差80mになるので勝負所となる。一般人にとっての8%はわずかな距離でも十分激坂である。 |
Posted by mur130 |
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